11歳になる猫ちゃんがいます。最近、腫瘍のようなものが見つかり、全身麻酔をかけてのCT検査を提案されました。
その際、獣医師から「5匹に1匹は目が覚めないかもしれない」と言われたのです。「5匹に1匹」というのは、あまりにもリスクが高すぎると飼い主は思いました。
ただこの方は猫の病気をそのままにしておきたくなかったので、違う動物病院に行って意見を聞かれました。すると「普通はまず大丈夫」だとのこと。その病院の獣医師は信頼できると思ったので、CT検査を受けさせることにしました。
体の小さな猫に全身麻酔をかけるとなると、確かに不安ですよね。このページでは、麻酔について調べてみました。
麻酔の種類
麻酔には大きく分けて2種類あります。局所麻酔と全身麻酔です。
局所麻酔
局所麻酔は私たちが歯医者で歯を抜かれるときに、歯茎に注射されるアレですね。神経に麻酔をかけることによって、その部分の痛みを脳に伝わらなくするものです。麻酔をかけたい付近に直接、注射麻酔をします。
人間の場合でしたら局所麻酔だけで動かないように我慢することもできますが、猫の場合はジッと我慢はしてくれません。意識は残っていますから暴れて不整脈が起きたり、恐怖心から精神に異常をきたす危険まであります。
ですから猫の場合、局所麻酔だけで処置や手術などを行うことはあまりありません。
全身麻酔
全身麻酔は脳自体に麻酔をかけて「寝てしまう」状況にすることによって、痛みをわからなくするものです。
多くは外科手術のために使われますが、他にもCTやMRIなどの検査目的、歯石取りや抜糸など麻酔無しでは痛みに耐えられないようなときの処置にも使われます。
全身麻酔の方法
現在の獣医学では注射だけで全身麻酔をすることは、ほとんどありません。麻酔の深さと時間調節が困難で、猫の体に負担がかかるからです。
麻酔性ガスを吸わせて全身麻酔をかける吸入麻酔(ガス麻酔)という方法が一般的です。
吸入麻酔は、麻酔の濃度や時間調節が自在にコントロールできますので、注射麻酔よりも格段に安全性が高くなります。現在では短時間の手術でも吸入麻酔を使用する病院がほとんどです。
全身麻酔の流れ
少量の鎮静剤と麻酔剤を注射し、猫がおとなしくなったところで吸入麻酔に移行します。麻酔が長時間になる場合は点滴を行います。麻酔中は各種モニターを使用して、心臓の動きや血液中の酸素の量、血圧、呼吸などをチェックして突発的な事態に備えます。
吸入麻酔はガスの供給を止めれば、呼吸をすることによって麻酔が体外に排泄され、比較的早く目が覚めます。吸入麻酔自体の覚醒時間は短いという特徴があるわけです。
しかし、最初の注射による麻酔は糞尿として排泄されるか、肝臓で分解されない限り効果がなくなりません。ですから完全に覚醒するには数時間かかることが一般的です。
全身麻酔の危険性
猫に痛みを感じさせず、手術をするためには全身麻酔をかける必要があります。しかし100%安全な麻酔というものは存在しません。それは猫も人間も同じことです。
アレルギー反応による副作用が起きる可能性は否定できません。例えば、心拍数が少なくなったり、呼吸困難に陥ったり、血圧が低くなったりといった症状です。これらの症状が長く続くと命に関わるリスクになります。
体への負担という意味では、肝臓や腎臓に負担がかかります。麻酔がかかると肝臓は麻酔を分解(解毒)しようと一生懸命働きますし、腎臓は注射で注入した麻酔薬を排泄するために働きます。
これらの臓器の機能が低下している猫に全身麻酔を行うと、体に大きな負担をかけてしまうことになります。
もちろん心臓に病気を持った猫や、高齢の猫なども危険度は大きくなります。麻酔をかける前に信頼できる動物病院で猫の健康状態を調べておくことが、とても大切です。
猫の麻酔事故と人間の交通事故の確率
以前、イギリスで麻酔のリスクに関する調査が行われました。それによると健康な猫、または軽度の全身疾患を持つ猫が麻酔中に亡くなる確率は0.11%だったと報告されています。
この調査では、猫の年齢や麻酔方法、麻酔の目的(軽めの処置 or 大きな手術)などはバラバラです。ですから例えば、健康な若い猫の去勢・避妊手術なら0.11%より低くなるでしょうし、高齢猫の大きな手術なら、これより大きくなる可能性もあります。
ちなみに1年間に交通事故で亡くなったりケガをしたりした人の数を、日本の総人口で割った「1年間で交通事故にあう確率」は0.9%という統計もあります。
あくまでも目安の数字ですが、麻酔の事故で猫が亡くなる確率よりも、私たち人間が1年間に交通事故にあう確率の方が約9倍も高かったりするわけです。
まとめ
猫に全身麻酔をかけるような手術をするとなると、飼い主としては不安に感じるのはあたりまえですよね。しかし、ただ漠然と不安に思っているだけでは、どんな手術も猫に受けさせてあげることはできません。
ある程度飼い主自身が知識を持ち、信頼できる獣医師の話を聞いた上で判断するしかありません。
- どのような設備でどのような麻酔をかけるのか?
- どのような手術なのか?
- 猫の体の状態は?
そして手術を受けさせると決断したならば、あとはその獣医師に任せるしかないというのが私の考えです。